【インタビュー】カン・ドンウォンら人気俳優がリスクを顧みず参加した話題作、『1987、ある闘いの真実』チャン・ジュナン監督

 
今からたった31年前、ソウルオリンピックを目前に控えた1987年。

日本がバブルに浮かれていた同じ時期に、韓国では国民が民主化を求めて国家権力に立ち向かい、勝利した事件があった。1987年当時、チョン・ドゥファン大統領率いる軍事独裁政権は、反政府運動の取り締まりを強化。ソウル大学の学生が尋問中の拷問で命を落としたことをきっかけに、大学生を中心に多くの市民が民主化と平和を求めて立ち上がったのだ。

この事件の発端となった大学生の不可解な死をめぐる実話を描いた映画『1987、ある闘いの真実』が先週末8日から公開中だ。

これまで韓国でもあまり知られていなかったという事件の全容を描きつつ、手に汗握るサスペンスや人間ドラマも楽しめるエンターテインメント作品としての面白さも十分。昨年韓国で公開されてるや話題を呼び、権威ある映画賞、百想芸術大賞では大賞にあたる作品賞はじめ4部門で受賞。キム・ユンソク、ハ・ジョンウをはじめ、カン・ドンウォン、ユ・へジン、ソル・ギョングら、人気・実力を兼ね備えた豪華俳優陣の競演も注目を集めた本作。

映画の日本公開に先立ち、来日したチャン・ジュナン監督は、「1987年は、韓国の現代史において重要な年だったにもかかわらず、映画や文学では誰も扱ってこなかった」と言う。映画の企画が持ち上がった当時は、政府に批判的な文化人に圧力をかけていたパク・クネ政権下。「このような映画をつくって、観客に届けることができるのだろうかと心配しました」と当時の心境を振り返る。

本作のような政治的に敏感な題材を扱った作品に出演することは、俳優たちにとってもリスクがあった。そんな中、脚本を読んでいち早く企画に賛同してくれたのは、民主化を求めるデモ隊に発砲された催涙弾で命を落とした大学生イ・ハニョルを演じたカン・ドンウォン。日本にもファンが多い人気俳優だ。「まだパク・クネ前大統領の政治スキャンダルが明らかになる前だった時期にも関わらず、非常に重要な役割なので是非やらせてほしいと力を添えてくれました」と、チャン監督はリスクを恐れないその姿勢に賛辞を贈る。

本作には、『お嬢さん』(2016年)で注目を集めたキム・テリ、チャン監督の『ファイ 悪魔に育てられた少年』に主演したヨ・ジングなど、当時を知らない今注目の若手俳優たちも参加している。「彼らには、シナリオを書く際に集めたさまざまな資料を見せて準備してもらいました。当時の雰囲気などについて、私たちが知ってる内容を口頭で伝えたりもしましたが、『本当ですか?』と信じられない部分が多かったようです。」たった31年前の出来事だが、韓国の人々ですら多くを知らなかったことが分かるエピソードだ。

「1987年を経験した女性が娘と一緒にこの映画を見にいって、見終わったあとに娘が泣きながら『87年を生きてくれてありがとう、と抱きしめてくれた』という話を聞きました。とても感動しましたし、この映画をつくってよかったと思いました。また、インターネットの書き込みで見たのですが、『パク・クネ政権がなぜブラックリストに固執して批判的な意見を封じ込めようとしたのか、この映画を見て分かった気がする』という意見もありました。教科書に載っている数行だけを読んだだけでは分からなかったことを知ることができ、歴史の新しい見方を得ることができたと書かれていて、作り手としてとても嬉しく思いました」

自由な社会を求め、市民たちが大きな権力に立ち向かった、たった30年前の物語。どんな小さな力でも、集まれば世の中を変えていける。今の日本を生きる私たちにも、社会の一員として生きることの意味を考えさせてくれる作品だ。

『1987、ある闘いの真実』
原題:1987
監督:チャン・ジュナン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、ソル・ギョング、
    カン・ドンウォン、パク・ヒスン、イ・ヒジュン、ヨ・ジング
2017年/韓国/129分
配給:ツイン  
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9月8日(土)よりシネマート新宿ほか、全国順次公開予定